【ネタバレ注意】公開初日から満席回続出!考察ミステリー『WEAPONS/ウェポンズ』のナゾに迫る7つのキーワード

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【ネタバレ注意】公開初日から劇場で満席回続出の大熱狂!考察ミステリー『WEAPONS/ウェポンズ』のナゾに迫る7つのキーワード

深夜2時17分。子供たち17人が、同じ時間に消息を絶った。そして、二度と戻らなかった――遂に日本公開を迎えた、考察ミステリー『WEAPONS/ウェポンズ』。公開初日から連日多くの映画ファンが殺到し、各劇場で満席回が続出!いち早く鑑賞した皆さまからは、「面白すぎて腰抜かした!!」「最高ッッッ!!!! 謎解きパートからクライマックスまで駆け抜ける様な爽快」等、予測不能の連鎖に驚愕する声がSNSで溢れました。この大ヒットを記念して、謎に満ちた本作の魅力について監督とキャストが語る特別映像が解禁、さらに謎に迫るコラム記事を映画評論家・森直人さんに寄稿頂きました…この話のヒミツもっと知りたいでしょう?

コラム寄稿:森直人(映画評論家)
※本コラム記事はネタバレを含みます。映画鑑賞後にご覧ください。

『WEAPONS/ウェポンズ』が観客を魅了する重要な要素のひとつとして、恐怖と笑いの絶妙なバランスが挙げられるだろう。小学校教師ジャスティン役を演じたジュリア・ガーナーはこう語る。「ザックの映画作りにはたくさんのユーモアがある。私は、コメディとホラーは同じコインの裏表だと思う」。

まさにガーナーの言葉通り、『WEAPONS/ウェポンズ』では恐怖と笑いが表裏一体となった、時にホラーからコメディに裏返るような状況や瞬間が何度も巧みに演出されている。しかもそれは“あるキャラクター”の登場でターボが掛かる。詳細は避けるが、M・ナイト・シャマラン監督の怪作『ヴィジット』(2015年)との親近性を指摘する識者もいる。

これはもともとザック・クレッガー監督がコメディ出身であることも大きいだろう。その意味ではやはりコメディからスタートした、『ゲット・アウト』(2017年)などのジョーダン・ピール監督にも近い。凍り付くような緊張を強いる恐怖一辺倒ではなく、時に脱力するような笑いや軽妙さを挟み込むことで、エンタテインメントとしての抜群の緩急が生み出されているのだ。

本コラムでは、タイトル『WEAPONS』の文字数にちなんだ7つのキーワードで、作品の魅力をさらに紐解いていく。

W▼ 架空のスモールタウン・メイブルック

『WEAPONS/ウェポンズ』の舞台となるのは、メイブルック(Maybrook)という名の架空の町。実際の撮影はアメリカ南東部のジョージア州アトランタで行われたが、物語上はペンシルベニア州にあるスモールタウンという設定だ。

ザック・クレッガー監督は「小さなニューイースタン(米東部)の町」を作るように、プロダクションデザイナーのトム・ハモックに指示を出した。ハモックが参照したのは、フィラデルフィア、クリーブランド、シンシナティといったペンシルベニア州やオハイオ州の郊外のコミュニティだ。クレッガー監督が目指したのは「普通の町」。どこにでもあるような平凡な場所で、謎の集団失踪事件が起こるからこそ、我々観客に身に迫るような恐怖を伝えることができる。「ザックはすべてをできるだけ普通に見せたかった。彼は観客にこの町を世界で最も普通の場所だと信じてほしかった」とハモックは語っている。

こういった舞台設定は米国を代表するミステリー作家、スティーヴン・キングを彷彿させるものだ。キングもまたメイン州のキャッスルロックやデリー、ネブラスカ州のガトリンといった“いかにも実在しそうな架空の町”を繰り返し物語の舞台として採用している。

なおアメリカ本国では「メイブルックニュース」(Maybrook News)という映画『WEAPONS/ウェポンズ』の世界観にちなんだ(架空の)ニュース記事を掲載するサイトが開設されている。

E◀ 2時17分について

なぜ、あるクラスの子どもたちが同じ夜の午前2時17分に起きて、階段を下り、自宅の玄関を開けて、暗闇に歩み出て、二度と戻ってこなかったのか?

この「2時17分」という謎めいた数字にも、様々な考察が飛び交っている。

まずザック・クレッガー監督自身が認めた説として挙げられるのは、スティーヴン・キングによる『シャイニング』の原作小説(1977年)から引用したというもの。

217号室は『シャイニング』に登場する謎めいたオーバールックホテルの部屋で、主人公ジャックの息子ダニーがその中に入らないように警告されている。モデルになっているのは、米コロラド州エステスパークにあるスタンレーホテルの217号室。キングが実際に滞在した部屋であり、彼が『シャイニング』の着想を得た悪夢を見た場所だとされている。なお、スタンリー・キューブリック監督の映画版『シャイニング』(1980年)では、部屋番号が237号室に変更された。

『WEAPONS/ウェポンズ』にはドアをめぐる演出面などで、映画『シャイニング』からの影響もまた感じさせる。ちなみにホラー映画史上、有数の名作とされる『シャイニング』だが、キング本人は映画版をまったく気にいっておらず、原作との乖離について猛烈に批判したことは有名な話。

他に挙がっている有力な説としては、まず失踪した子どもが17人で、教室の残されたのが担任のジャスティン先生(ジュリア・ガーナー)ともう一人の計2人。この比率「2:17」をそのまま表したものだ、というシンプルな意見もある。

あと『WEAPONS/ウェポンズ』を銃乱射事件の風刺寓話と見る向きからは、2022年に米下院でアサルトライフル禁止法案が賛成217票(反対213票)で可決されたからではないか、という意見も。また新約聖書のマタイによる福音書2章17には、子どもを失った親の悲しみについて綴られており、その内容に補助線を引く考察も起こっている。

多様な深読みを誘発する2時17分――この謎は映画の枠を飛び越えて我々の現実社会でも、ひとつの都市伝説のように広がっているようだ。

A▲ 子どもたちの特徴的な走り方

失踪事件の際、夜の闇の中に消えていく子どもたちの走り方について、ザック・クレッガー監督はそのインスピレーション源を明らかにしている。それはベトナム戦争下でAP通信の記者によって撮られた、米軍から攻撃を受けた村で逃げ惑う当時9歳の少女ファン・ティー・キムフックの痛ましい記録写真だ。監督はこう語る。

「すべての子どもが同じ好奇心に満ちた姿勢で庭を走り、体を伸ばし、重いバッグを持つ人のように腕をV字に伸ばしている。彼らはあの象徴的な写真に登場するナパームまみれの裸のベトナム人の少女のように走っているんだ」。

その写真とは1972年6月にベトナムで撮影された戦争写真『戦争の恐怖』(The Terror of War)、別名『ナパーム弾の少女』である。そこには服が完全に焼け落ち、重度の火傷を負って裸で泣いている少女や他の子どもたちが写っている。この写真は1973年にピューリッツァー賞を受賞。戦争がもたらす理不尽な残酷さと、無実の犠牲者たちの凄惨な悲劇を後世に生々しく伝えるものだ。なお、ファン・ティー・キムフックさんは現在カナダ在住で、国連平和の語り部(ユネスコ親善大使)として活動している。

P◤ タイトルの意味

兵器、あるいは武器。『WEAPONS/ウェポンズ』というタイトルは何を意味するのか? 直接的には、失踪した子どもたちのように“ある状態”に陥った者たちが、両腕を広げてひたすら突進していく――つまり「人間兵器」になることを指しているようだが、他にも複合的な意味やイメージが重ねられているようにも思える。

例えば失踪した17人の子どものひとり、小学生マシューの父親であるアーチャー(ジョシュ・ブローリン)が夢で見る「ライフル」が象徴しているように、この映画はアメリカ社会で頻発している学校での銃乱射事件のメタファーではないかと指摘する声が多い。そして事件発生後、クラスの生徒ほぼ全員が一晩で消えた原因は「魔女」(WITCH)のしわざだという陰謀論が発生し、担任の教師ジャスティン(ジュリア・ガーナー)が魔女だという噂によって追い詰められていく。

尤もクレッガー監督は、『WEAPONS/ウェポンズ』を政治的な寓話として読む解釈には一定の距離を置いているようだ。しかし傑作と呼ばれるホラー映画は、常に社会情勢を反映している。クレッガー監督の前作にして単独監督デビュー作、2022年の『バーバリアン』もまた、女性蔑視や性的虐待という#MeToo以降の問題意識と連なる主題を装填していた。

O△ 中心的な問いは「なぜ?」(脚本の書き方について)

独創的なオリジナル脚本を自ら手掛けるザック・クレッガー監督には、執筆する時のマイルールがある。それは「先の展開をまったく知らない(考えていない)状態で書き始める」こと。

『WEAPONS/ウェポンズ』で最初に書いたのは、語り部となる子どものナレーションと、子どもたちが家から駆け出していく場面。そこから「なぜ?」という問いかけを何度も自らに投げて考えを積み上げていく。なぜそうなったのか、この状況はなぜ起こったのか。大胆な着想から立ち上がった設定や場面から、自ら未知の物語を探検していくように残りのプロットを紡ぎ出していく。こうして既存の予定調和に回収されない斬新なストーリー展開が“発明/発見”されていくのだ。

この執筆方法は、単独監督デビュー作の『バーバリアン』の時に生み出されたものらしい。「『バーバリアン』の時と同様、『WEAPONS/ウェポンズ』も最初アウトラインはなかった。何についてかもわからなかった。ただ、映画が自然に見えてくるのを見ていただけだ。僕はシナリオを書きながら、その時間の中で、今まさに生まれてくる映画を観たいんだ」とクレッガー監督は語っている。しかも、いわゆる“行き当たりばったり”では終わらせず、最終的にはゴリゴリのロジカルな完成度にまで仕上げてくるのが本当に凄い!

N◣ 語りの形式――『羅生門』から『マグノリア』まで

「実質的に7人の主役がいる」とザック・クレッガー監督は『WEAPONS/ウェポンズ』の説話構造について語る。この映画では複数の登場人物の名前がそのままチャプターとなり、ある種バトンリレーのように、同じ場面が異なる人物の視点から改めて描かれたりする。

こういったドラマツルギーの元祖は、黒澤明監督の『羅生門』(1950年、原作は芥川龍之介の小説『藪の中』)だ。海外でも「羅生門メソッド」(Rashomon method)として広く知られる語りの形式は、ひとつの出来事に対して複数の当事者や目撃者の視点から語られていくプロットの構築法を指す。そこでは語り手の主体によって矛盾や食い違いが起こり、「主観や記憶のあいまいさ」が強調され、真実を炙り出すことの困難が浮き彫りになる。

ただし『WEAPONS/ウェポンズ』の場合は、こういった「主観や記憶のあいまいさ」といった領域には手を出さず、あくまで特定の事実を複数の視点(アングル)から捉え直し、我々観客に向けて、最初は限定的だった全体把握の解像度をそのつど上げていくというやり方だ。その意味では円環的な枠組みも含め、『羅生門』の派生形とも言える、クエンティン・タランティーノ監督の『パルプ・フィクション』(1994年)などに近いアプローチかもしれない。

しかしクレッガー監督が実際に参照したのは、ポール・トーマス・アンダーソン監督の『マグノリア』(1999年)のようだ。確かにひとつの町を舞台にしたモザイク模様の群像劇であり、音楽で場面転換する編集の技なども共通する。ちなみに序盤で流れるジョージ・ハリスンの名曲「ビウェア・オブ・ダークネス」(「闇に警戒せよ」の意味。1970年の名盤『オール・シングス・マスト・パイ』収録)など、選曲も緻密に考え抜かれている。また警察官ポール(オールデン・エアエンライク)の外見は、『マグノリア』でジョン・C・ライリーが演じた警察官ジムにそっくりだとの指摘もある(実際、口ひげは完全にオマージュ)。

S▶ 親友の死

ザック・クレッガー監督が『WEAPONS/ウェポンズ』の脚本を執筆するきっかけになったのは、個人的な喪失体験だという。それは親友、トレヴァー・ムーア(1980~2021)の死だ。

才能あるコメディアンにして俳優、脚本家、監督、プロデューサーとして活躍したトレヴァー・ムーアは、ザック・クレッガーらと共にコメディトループ「ザ・ホワイトスト・キッズ・ユー・ノウ」 (WKUK)を創設したオリジナルメンバー。2009年のコメディ映画『お願い!プレイメイト』では、クレッガーと共同監督・脚本、そしてW主演を務めた。この作品はクレッガー、ムーア両者にとって初めて監督に挑戦した長編映画。まさに二人は初期のキャリアを一緒に築いてきたのだ。

しかし2021年8月、ムーアはロサンゼルスのフランクリンヒルズにあった自宅の2階バルコニーから誤って転落。41歳の若さで亡くなった。

クレッガー監督を襲ったこの悲しみが、もし愛する人が突然いなくなったら、という喪失を起点とする物語へと結実した。『WEAPONS/ウェポンズ』の印象的なワンシーン――小学校の校長マーカス(ベネディクト・ウォン)とパートナーが自宅で7本のホットドッグを用意してテレビを視聴する場面は、テレビ番組『The Whitest Kids U' Know』の人気コント「ホットドッグ・ティミー」のパロディであり、トレヴァー・ムーアへの熱い友情に満ちたオマージュである。

そして最後に、関連作いくつか…

今回の『WEAPONS/ウェポンズ』に魅せられた人は、まずザック・クレッガー監督の単独長編デビュー作『バーバリアン』(2022年)は必見だ。米ミシガン州デトロイトのブライトムーア地区の荒んだ町を舞台に、主人公女性がAirbnb(民泊マッチングサービス)で借りた家で巻き起こる恐怖を描いた快作。絶妙な笑いの配合や選曲の巧さなど、『WEAPONS/ウェポンズ』と共通する要素がいくつもある。新たなホラーマスターとしてのクレッガー監督の個性と才気が凝縮された原点と言える一本だ。また『WEAPONS/ウェポンズ』で行方不明の子どもの一人の父親であるゲイリー役を演じたジャスティン・ロングは、『バーバリアン』では問題の家の所有者であるチャラいハリウッド俳優AJ役を演じている。

さらにクレッガー監督が『WEAPONS/ウェポンズ』を作るに当たってヒントになった映画として挙げているのが、先述の『マグノリア』(「語りの形式――『羅生門』から『マグノリア』まで」の項目参照)と、ドゥニ・ヴィルヌーヴ監督の『プリズナーズ』(2013年)だ。突然失踪した娘の行方を自力で探し出そうとする父親役をヒュー・ジャックマンが熱演するスリラー映画の傑作。『WEAPONS/ウェポンズ』で言うと、失踪した息子マシューの父親アーチャー(ジョシュ・ブローリン)をめぐるエピソードと重なる内容だが、クレッガー監督はむしろ映像面での影響が大きいと語っている。彼と撮影監督のラーキン・サイプルは、『プリズナーズ』で名手ロジャー・ディーキンスが手掛けた撮影を賞賛し、あの陰鬱で無秩序な雰囲気を本当に再現したかったと述べている。

ちなみにもうひとつ、アーチャーの息子マシューの部屋に、ジョージ・ミラー監督の『マッドマックス 怒りのデス・ロード』(2015年)のポスターが貼ってあったことに気づいた人も多いだろう。これを『WEAPONS/ウェポンズ』関連作の末尾として挙げておきたい。

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